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長崎地方裁判所 昭和26年(ワ)407号・昭26年(ワ)373号・昭27年(ワ)46号 判決

第三七三号原告 夏井与太郎 外一名

第四〇七号原告(選定当事者) 江尻八十吉

第四六号原告 宿輸勇八 外一名

第三七三号・第四〇七号・第四六号被告 奈留島村漁業協同組合

第四〇七号被告 鎌田熊蔵 外二二名

一、主  文

一、昭和二十六年九月二十五日、被告奈留島村漁業協同組合の総代会がなした、共同漁業権の行使方法に関する議案可決の議決が、無効であることを確認する。

二、昭和二十七年二月十一日被告奈留島村漁業協同組合の臨時総会においてなした、同組合定款の一部変更を可決する旨の議決はこれを取消す。

三、昭和二十六年(ワ)第四〇七号事件の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、昭和二十六年(ワ)第四〇七号事件について生じた部分は原告江尻八十吉の負担とし、その余の部分は、被告組合の負担とする。

二、事  実

原告ら訴訟代理人は「昭和二十六年九月二十五日、被告奈留島村漁業協同組合の総代会においてなした、共同漁業権の行使方法に関する議案可決の議決が無効であることを確認する。」「被告らは原告らが奈留島村浦郷立岩海岸の地先網曳場を基地とする地曳網漁業権の行使並びに同網曳場の使用をなすにつき、原告らと共に行使及び使用をすることは差支えなきも妨害してはならない。」「昭和二十七年二月十一日被告奈留島村漁業協同組合の臨時総会においてなした同組合定款の一部変更を可決する旨の議決が無効であることを確認する。」若し右議決が無効でないとすれば「右議決はこれを取消す。」「訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、(一) 原告らはいずれも被告奈留島村漁業協同組合(以下被告組合という)の組合員であり且漁民であるところ、被告組合は昭和二十六年九月二十五日、その組合事務所において臨時総代会を開催し、共同漁業権の行使方法に関する議案を上程し討議の上これを原案どおり可決する旨の議決をした。しかしながら右議決は次の理由により当然無効たるを免れないものである。すなわち漁業法第八条によれば共同漁業権の行使方法は、これを組合定款に定むべき旨規定されているところ、被告組合の定款には従来漁業権の行使方法に関する何らの定めも存しなかつたから、被告組合が新にその行使方法を定むるには、必ず定款変更の手続を経なければならないこと当然であつて、被告組合定款の基本法である水産業協同組合法第五十条の規定によれば、定款の変更は、総組合員(準組合員を除く。)の半数以上が出席し、その議決権の三分の二以上の多数による議決を必要とすることになつているから、結局共同漁業権の行使方法を定めるには、組合総会の特別議決による定款変更の手続によらなければならぬことが明である。斯様に共同漁業権の行使方法は必ず定款を以て定むべきものであるから、被告組合がいうように、若しこれを組合の一議決機関である総代会の議決によつて定め得るものと解するならば、定款変更の正式手続によらず然も実質的にはこれを変更する結果を生じ漁業法第八条の規定の趣旨に正面から矛盾する結果となる。そしてまた総代会に斯様な議決権の存しないことは前記水産業協同組合法第五十二条第五項及び被告組合定款第四十六条の規定に徴しても疑がない。また被告組合は、漁業権の行使方法は、定款の絶対的必要的記載事項にはなつていないから、総代会の議決を以てこれを定めることができると解釈している。然しこれは明に誤つている。何故ならば漁業権の行使に関する事項が定款の絶対的必要的記載事項でないとしても、漁業法第八条が「定款の定めるところにより」と規定し、水産業協同組合法第五十二条第五項、組合定款第四十六条が定款の変更に関する事項については、総代会に議決権がない旨を規定している以上、漁業権の行使方法に関する事項は定款のいわゆる任意必要的記載事項であると解さねばならないからである。而してまた漁業法施行法第一条第二項、昭和二十六年政令第一四八号及びこれに基く同年七月三十一日長崎県告示第三六五号によれば、昭和二十六年九月三十日を以て旧漁業法(明治四十三年法律第五十八号)による漁業権は消滅し、同時に新漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)による共同漁業権が漁業協同組合に免許され、且該漁業権については同日以降新漁業法が適用されることになり、同法第八条の規定によつて、漁業協同組合の組合員たる漁民は定款の定めるところに従い、所属組合の共同漁業権を各自行使できることになつたのであるから、或る組合員の一部にのみ漁業権を行使させ、他の組合員にはこれを行使させないというが如きことは、明に漁業権の得喪変更を生ずる事項であつて、水産業協同組合法第五十条第五十二条第五項の規定によれば、漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更は組合総会の特別議決によるべく、総代会において議決をすることができない旨定められているのであるから、被告組合の総代会が前記の如く組合員の一部にのみ漁業権を行使させ、他の組合員である原告らにはこれを行使させない旨議決したということは、明に違法であつて何らの効力を生じないものといわねばならない。そして原告らはいずれも被告組合の組合員たる漁民として、右総代会の無効な議決が実施されることにつき、法律上重大な利害関係を有するので、ここに被告組合に対し右議決の無効なることの確認を求める次第である。(二) 而して被告ら(組合を除く以下同じ)は、前記の如き無効な総代会の議決により、奈留島村浦郷立岩部落海岸における地曳網漁業の行使権ありと称し該漁場を独占し原告らの漁業権の行使を妨害しているのであるが、しかし同漁場は、原告ら若しくはその先代が、大正元年以来六ケ月の歳月と多額の費用を投じて開拓し、爾来新漁業法施行まで地曳網漁業を経営し、これを共同管理占有してきたものであるから、共同漁業権の行使方法が定款によつて定められるまでの間は原告らになお該漁場に対する占有権があり然も、また原告らには、被告組合が免許を受けた共同漁業権の準占有権があるのである。或は漁業法第八条が漁業協同組合の組合員にして漁民であるものは、定款の定めるところにより、各自漁業を営む権利を有すると規定しているところから、定款によつて共同漁業権の行使方法が定められるまでの間は、組合員には顕在的な権利がないという意見があるけれども、しかし若しこの見解に従うならば、定款の定めがなされるまでの間は、何人も漁業を営み得ないということになり、魚族をみて傍観する外はないことになつて明に漁業の実体が無視される結果となる。従つて漁業権が組合に免許されると同時に、その組合員たる漁民全部が各自漁業を営む顕在的な権利を取得すると解すべきであつて、ただ漁業法第八条の規定は、この組合員各自の行使権を放任するときは、勢い漁場の争を招き、行使の円満を欠き、引いては生産を減少せしむる虞を生ずるが故に、定款の定めによりその間の利害を調整し組合員を数ブロツクに分け、漁場を個別化して漁業権行使の円滑を図らせようとするのが、その趣旨であるというべきである。果してそうだとすると、原告らには奈留島村浦郷立岩部落海岸における地曳網漁場の占有権があり然も右漁場において各自漁業を営む顕在的な権利があることになるのであるから、前記の如く被告組合総代会の議決にして無効である以上は、被告らだけが該漁場を独占し、該漁場における原告らの操業を妨害することは、到底許されないといわねばならない。尤も原告らは被告らを締出して該漁場を独占する積りはない。それは定款によつて共同漁業権の行使方法が定められるまでの間は被告らにも亦、前記網曳場において各自漁業を営む権利が認められるが故に、被告らが原告らと共に前記網曳場を基地とする地曳網漁業権の行使並びに同網曳場の使用をなすのであれば兎も角、ただこれを独占し、原告らの操業を妨害しているから、その排除を求めんとするものである。(三) 次に被告組合は、昭和二十七年二月十一日奈留島村立第一中学校において臨時組合総会を開催し、被告組合総代会が先に議決したとおり、組合定款の一部を変更する件外一件の議案を上程し、これを原案どおり可決する旨の議決をした。しかしながら右議決は次の理由によつて無効である。すなわち、(イ) 右臨時組合総会の開催に当り、たとえば岩村ハツの如く総会招集の通知を受けない者があり、或は総会当日出席を拒否された者がある。(ロ) 総会の開催場所が、通知に係る招集場所と異なつている。すなわち右通知によれば、総会開催場所は被告組合事務所と定められていたにかかわらず、当日突如としてこれを変更し、奈留島村立第一中学校において総会が開かれたのであるが、これは組合定款第三十八条に違反する。(ハ) 被告組合定款第四十二条の規定によれば、総会の議長は出席した正組合員の中から、正組合員が選任する旨定められているところ、当時被告組合の組合長であつた藤原時衛は斯る選任手続を経ることなく勝手に議長席に着いて議事を進行せしめた。斯様に同人は適法な選任手続を経た適式の議長ではないのであるから、同人による議案の提示その他の議事進行はすべて違法であつたというの外はない。(ニ) 議長が議案の採決方法につき動議を提出した違法がある。すなわち本件議案の採決は、原案賛成者を議場外の校庭に退去させてその数を数え、これを出席組合員の総数から控除したものを反対者と看做す方法がとられたのであるが、議長藤原時衛は、総会議事細則第十三条の規定に違反し、斯る採決方法をとることにつき動議を提出しているのである。(ホ) 議長藤原時衛は水産業協同組合法第四十九条、前記議事細則第十九条に違反して採決の数に加わつた。(ヘ) 本件における議案の採決方法自体が議事細則第十五条第十六条並びに水産業協同組合法第四十九条の違反である。すなわち、(1)  総会議事録によれば本件採決方法は議長が出席組合員の全員に諮り、その多数の賛成を得たものである旨記載せられているのであるが、しかし当時の議場の状況から推して議事進行が徹底していたとは考えられないので、果してこれが出席組合員の総意であつたか否かが甚だ疑わしいのみならず、仮りにそれが出席組合員の総意であつたとしても、議事細則に定めのない異例の採決方法をとることは、議事細則第十五条第十六条の変更というべきであるから、単に動議に賛成するということによつては、斯様な採決方法をとることは許されず、それにはまず議事細則自体の変更手続を要するといわねばならない。(2)  或は議事細則第十五条第十六条に規定されている採決方法は、例示的なものに過ぎないから、場合によつては議長が、出席組合員多数の賛成を得て、例示以外の方法により採決をなすことも何ら差支えないとする見解がある。しかし本件において問題は、(甲) 果して出席組合員の過半数の賛成があつたか否かということであるが、前記のとおり、当時の議場の模様からして、議事の進行さえ徹底せず、大多数の者が議場内に残留していたところを、組合幹部が議場後方に督励に廻り、議場外に出ることを勧誘していた位であるから、到底出席組合員の過半数の賛成があつたとは考えられない。(乙) 又議事細則第十五条第十六条の定める採決方法によることが絶対不可能であつたという事情はない。けだし現に総会終了直後原案反対者のみ議場内に残留し員数を算えているのであるから、原案賛成者を議場外に退出せしめ、その数を算した以上は、次に議場内に残留している原案反対者の数を当るということ位は十分出来えた筈であり、もつと適切な双方納得の行く公明な方法をとることが十分可能であつたからである。(丙) 然も議事細則第十五条第十六条の規定は限定的であると解さねばならない。何故なら、上は国会から下は一組合の総会に至るまで、議事に関する規定が設けられているのは、議事の不純、不正を防止し、その公平、適正、円滑を期するためであるところ、若しも議長が総会に諮りさえすれば、便宜如何なる方法をも採り得るとするならば、これらの議事に関する規定は不要化し、空文化し、引いては水産業協同組合法第四十九条の規定の精神に違反することになるからである。(3)  或はまた賛否の数の調査については、賛成者一方のみの数を算すれば反対者の数を算せずとも何ら差支えがないとする議論がある。然しながら議事細則第十六条は、「採決は可否両方について行い、まず賛成者の数を先にとらなければならない」と規定しているのであつて、その趣旨は、まず賛成者の数を算した後、必ず反対者の員数も数えなければならないということでなければならない。なるほど賛成者の員数を数え、これを出席者総数から控除すれば算数上反対者の数は当然出てくることにはなるけれども、如何なる採決方法をとるにせよ、大多数の人数を算するときは、往々にして計算違いを生ずることがあり得るし、或は組合員以外の者が採決の数に加わることなきを保し難いから厳に賛否双方につき正確な数を算する必要があること当然といわねばならない。そうすると、たとえ議長が出席組合員多数の賛成を得たとしても、議事細則第十六条の定める以外の採決方法をとることは、到底許されないと解すべきである。(ト) 仮りに叙上の各違反事実を考慮外に置くとしても、採決の結果は三分の二以上の賛成を得たものとは認め難いので、結局議案は否決されたものといわざるを得ない。(1)  総会当日の議事録によれば、原案賛成者九百七十九名、出席数千三百九十六名の三分の二以上の賛成ありとして原案を可決したとあるが、この賛成者の数は次の諸点からして確実性がないのである。(甲) 被告組合は、奈留島村に住居を有せず一時出稼のために所在する者、すなわち組合員たる資格なき者五十四名を組合員として出席させている。(乙) 組合員以外の傍聴者多数の者が議場外に退出した賛成者に混つて、その採決の員数に加えられている。(丙) また叙上の者を含めて員数を算するに当り正確な算定がなされていない。つまり前記議事録記載の賛成者の員数は出鱈目である。(2)  次に総会解散直後、原案反対者に場内に居残りを求めて、その数を厳密に算したところ五百三十二名であつた。この動かし難い事実に徴しても前記議事録記載の賛成者の数が正確でないことが明である。(3)  また被告組合の漁業権行使方法が不公正、非現実的であるというので、これに不満をいだく者が主体となり、別に奈留島第一漁業協同組合を結成しているのであるが、その組合員の数から考えても、原案賛成者が全体の三分の二以上あつたとは考えられない。(チ) 被告組合は定款変更につき知事の認可があつたから、その取消がない限り、定款は有効である旨主張するけれども、前記のとおり議決にして不存在または無効のものである以上は、知事の認可によつて斯様なかしが治癒せられる筈はない。

叙上説明のとおり、被告組合の議決は当然に無効というべきであるから、原告らはここにその確認を求むべく、仮りにそれが無効でないとしても、手続違背の廉によつて取消さるべきものであるから、その取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述した。<立証省略>

被告ら訴訟代理人は「原告らの請求はいずれもこれを棄却する。」「訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め答弁として、(一) 原告らがいずれも被告組合の組合員で且漁民であること及び被告組合が昭和二十六年九月二十五日臨時総代会を開催し共同漁業権の行使方法に関する議案を上程し、討議の上、これを原案どおり可決する旨議決したことは認めるが、該議決を無効とする原告らの見解はこれを争う。原告らは、共同漁業権の行使方法は組合定款を以て定むべきであつて、組合の一議決機関である総代会の議決によつて定め得べき事項ではないと主張する。しかしながら定款に記載すべき事項は、水産業協同組合法第三十二条の定めるところであるが、同条は共同漁業権の行使方法を定款に記載すべきことを命じていないから、従つてその行使方法は組合の意思決定機関である組合総会の議決による外はないと解さねばならない。そして被告組合総代会は、被告組合が昭和二十六年七月四日さきに通常総会を開催し、その総会において共同漁業権の行使方法の決定を総代会に一任する旨議決をしたので、これに基き、前記のとおり、同年九月二十五日会議を開き、組合総代過半数の賛成を得て適法に議決をしたのである。それでこれを目し無効とすべき理由はない。若しも原告ら主張の如く共同漁業権の行使方法が、定款の必要的記載事項であるならば、被告組合の定款には従来その旨の定めがなかつたのであるから、定款自体が無効であり、従つて被告組合も亦成立しないという結論になる。またこれを定款の任意記載事項であると解すれば、共同漁業権の行使方法は、これを総代会の議決により定め得ないという理由はない。そしてまた共同漁業権の行使方法が定款の任意必要的記載事項であるとしても、その規定が設けられるまでの間は、総代会の議決による行使方法の決定が認容されねばならない。けだし、若しこれを認めないとすれば、定款に漁業権の行使方法が定められるまでの間は、何人も漁業を営み得ないという不都合を生じ、一般漁民の福祉が著しく無視される結果となり、却つて新漁業法の精神に反するといわねばならないからである。然もまた被告組合においては、後記の如く昭和二十七年二月十一日臨時総会を開催し、その出席組合員の三分の二以上の賛成を得て、適法に定款一部変更の手続をなし、同月十二日長崎県知事の認可を得ているから、もはや原告らは、本件総代会の議決の無効確認を訴求する法律上の利益を失つたといわねばならない。(二) 原告らは奈留島村浦郷立岩部落海岸における地曳網漁場に対する占有者であり、且漁業法第八条の規定により右漁場における漁業権の準占有者であると主張している。しかしながら斯様な主張を裏付ける何らの法律的根拠はない。すなわち漁業法施行法第一条第二項昭和二十六年政令第一四八号及びこれに基く同年七月三十一日長崎県告示第三六五号によつて、昭和二十六年九月三十日限り旧漁業法による漁業権は消滅し、同時に新漁業法による共同漁業権が被告組合に免許され且新漁業権については同日以降新漁業法が適用されることになつたのであつて、既に補償金も支払われ旧来の漁業関係は、一切白紙に還元されたのであるから、原告ら若しくはその先代が前記漁場において地曳網漁業を営んでいたからといつて、旧来の漁業関係の一切が白紙に還元された今日、依然としてその占有権だけが残存するという理由はない。むしろ却つて斯様な占有権及び旧来の漁業関係の一切がここに消滅したものと解さねばならない。また漁業法第八条が、定款の定めるところにより、その漁業協同組合の組合員は各自漁業を営む権利がある旨定めているのは、組合員である漁民は、定款の定めるところに従つて、各自漁業を営み得る資格があるということ、つまりいわば潜在的に漁業を営み得る権利があるということを規定しただけのことであつて、この規定から直に顕在的な操業上の具体的な権利が生れてくるものではない。ところで被告組合に免許された共同漁業権の行使方法については、総代会において、既に議決がされた以上、少なくとも暫定的にはこれに従うべきこと前記のとおりであり、然も昭和二十七年二月十一日被告組合の臨時総会において、定款の一部変更に関する議案を可決し、定款第六十六条に、内西海田尻内鼻より鈴の浦波止場尖端見通線との交叉点以内に囲まれた区域内の、きびな、鰯地曳網漁業は、内西海部落に居住する被告組合の正組合員をして行使せしめる旨の規定を設けるに至つたから、同部落に居住する正組合員である被告らは、同漁場において顕在的に漁業を営む具体的な権利を取得したと同時に、同部落に居住しない原告らには、同漁場における操業上の顕在的な権利はないものといわねばならない。そうすれば原告らが右区域内に属する浦郷立岩海岸における漁場の占有権があり、また右漁場における漁業権の準占有者であると称して被告らに対し、妨害排除を訴求する何らの権利のなきこと明である。若し仮りに何らかの理由により被告らに顕在的な操業上の権利がないとするならば、同時に原告らにも斯様な権利があるという如何なる理由もないのであるから、矢張り原告らが、権利として妨害排除を求めるということは、その根拠がないというべきである。(三) 被告組合が昭和二十七年二月十一日奈留島村立第一中学校において臨時総会を開催し、総代会がさきに議決したとおり、組合定款の一部を変更する件外一件の議案を上程し、これを原案どおり可決する旨の議決をしたことは認めるが、該議決を無効又は取消し得べきものとする原告らの見解はこれを争う。(イ) 臨時総会の開催に当り組合員に総会招集の通知をせず、或はその出席を拒否したなどというが如き事実はない。尤も岩村ハツに対し招集通知をしていないことは認めるが、しかし同人は原告らの組織する奈留島第一漁業協同組合の組合員であるけれども、被告組合の組合員ではないのであるから、被告組合が招集の通知をしないことは当然のことである。(ロ) 組合臨時総会が、招集通知の場所と異なつた奈留島村立第一中学校において開かれたことは相違ない。しかしこれは総会開催場所である被告組合事務所の階上が、多数組合員が参集してきたために危険となり、再三管理者から 注意もあつたから、全組合員に諮問し、その同意の下に已むなく変更したのであつて、これがため旧会場に出席しながら総会に参加しなかつた者は一名もない。それでその後における手続にして適正に行われた以上は、これを以て、総会の議決を違法ということはできない。(ハ) 原告らは、本件臨時総会の議長藤原時衛は、適式の選任手続を経たものではないと主張している。しかし同人は被告組合の組合員であり、しかも当日の出席組合員過半数の賛成を得て選任せられた適式の議長である。それで同人による議案の提示その他議事の進行が不適法であるという理由はない。(ニ) 議長藤原時衛が議案の採決方法につき動議を提出したことはない。ただ採決方法につき、出席組合員に諮問したに過ぎない。(ホ) 議長は終始議長席に座していて、採決に加わつたことはない。尤も全出席者総数より原案賛成者の数を差引いて、その残りを反対者と看做すことになつたので、計算上議長が原案反対者の数に加わつていることにはなる。しかしこの過誤によつて、原案反対者の数が事実より一名多くなるというだけのことで、採決の結果には何らの異動をも及ぼさないのであるから、このことを以て直に本件議決を無効ということはできない。(ヘ) 議案の採決方法が違法であるという見解には反対する。(1)  原案賛成者を議場外に退去させ、その数を算し、これを全出席者数から控除したものを反対者としたことは、なるほど議事細則に定めのない例外的採決方法であつた。しかし採決というのは結局は、当日の議案に対する賛否の数を明確ならしむることが問題なのであるから、議事細則に定める通常の採決方法に従つては到底賛否の数を明確になし難い特段の事情があるときには、他の採決方法をとることも亦已むを得ない措置といわねばならない。ところで当日の議場の混乱状況、総会の流会を策動する原案反対者の騒擾の状態から考えるとき、議事細則の定める通常の採決方法に従つたのでは到底、賛否の数を明らかならしめることが、不可能であると認められたから、全出席組合員に諮りその過半数の議決によつて、最も合目的な最上の方法として前記の如き採決手続がとられた訳である。勿論今後も常にこの方法に従つて採決をするのが良いというのであれば、議事細則をそのように変更する必要があるけれども、通常冷静に運営される総会では現在の議事細則に示された方法によることが良いのであつて、ただ本件の採決手続はこの総会における特別の事情による臨時緊急措置としてなされたものに過ぎないから、議場細則を変更する何らの必要はない。(2)  被告組合も議事細則に定める以外の方法で何時でも採決手続をして良いと主張しているのではない。ただ前陳の如く採決というのは結局賛否の数を明確ならしめることが問題なのであるから、通常の採決方法に従つたのでは到底賛否の数を明かにすることができない特段の事情がある場合には、他の採決方法によることも已むを得ないといつているのである。何故なら若しも斯様な場合に、なお通常の採決方法に従わねばならないとすれば、それは賛否の数を明確ならしむることにつき不可能を強いるものといわざるを得ないからである。それでこの意味では前記議事細則の規定は矢張り例示的であると解するのが相当である。(甲) 然もこの採決方法は全出席組合員の過半数による議決によつたものである。(乙) 原告らは、本件において、斯様な採決方法をとらねばならぬ何らの事情はないと主張している。しかし当日の議場の混乱状況に照し、また議場を無秩序と化し、流会を策動していた原告ら原案反対者の騒擾の状況から考えるとき、何人と雖も、前記の措置が最も妥当であつたことを承認せざるを得ないのである。このことは室内に残留していた原案反対者達が、或は「アジ」演説によつて気勢をあげ或は議長を攻撃する者があつて、その騒然さは、到底員数を数え得る状態でなかつた一事に徴しても窺い得るところである。(丙) そして原告らの主張の理由のないことは、従来被告組合における総会においても、例えば議場内で、賛成者反対者を左右両側に分けて各々整列させ、その数をとつたことなど議事細則に定めのない採決手続がとられた例が多かつたのであるが、それについては何らの異議がなかつたことに徴しても明である。(ト) 本件の議案は出席組合員三分の二以上の賛成を得て適法に議決されたものである。(1)  すなわち当日の出席組合員の数は千三百九十六名であるところ、原案賛成者は九百七十九名であつたから、原案賛成者が出席総員の三分の二以上であることは算数上疑の余地がない。原告らは右賛成者の数は必ずも確実性がない旨攻撃しているけれども、その主張の理由なきことは以下述べるとおりである。(甲) 原告らは、奈留島村に住居を有せず一時出稼ぎのために所在する者五十四名を組合員として出席せしめたと主張するが、当日の総会受附簿によれば、右五十四名中、中尾済喜、黒岩清六、卯野国次、山川与市、隠崎鉄次、松本久七ら合計六名の者は欠席していることが明であるので、この六名を除く四十八名がすべて無資格者であり、総会当日原案賛成者の数に加わつたと仮定しても、当日の原案賛成者九百七十九名より四十八名を控除した九百三十一名は依然原案賛成者であつて、この数は当日の出席者の三分の二以上に当るのであるから、採決の結果には何らの影響がなく、従つて原案が可決されたことには変りがない。しかも五十四名の者はすべて、被告組合定款の定めるところにより、奈留島村に住所を有し、一年のうち三十日以上漁業を営み、又はこれに従事する者であつて、且理事会の承認を得、出資の払込をなし正式に被告組合に加入した正当の組合員である。(乙) 原案賛成者の数をとるに当り、組合員以外の者がその数に加つたという事実はない。また賛成者の数を算するに当つては、被告組合の役職員十数名の者が、或は列毎に、或は一人一人を数えてその正確を期したのであつて、特に原告らの組織する第一漁業協同組合の組合員で且被告組合の組合員である宮崎監事は、自ら賛成者の数を当つてそれが正確に九百七十九名であることを確認しているのである。(2)  原告らは総会解散後、原案反対者を議場に残留させて厳密に、その数を当つたところ、五百三十二名を算したと主張している。しかしこれは総会の終了後に原告らが一方的に反対者を数えたというだけのことで、総会の議決には何らの関係がないばかりでなく、しかも総会当日、被告組合の組合員でない前記第一漁業協同組合の組合員約三百名位の者が押しかけ、内部の者と呼応して騒いでいたのであるが、総会終了後、これら多数の者が一時に場内に合流してきた事実があるので、前記数字がたとえ正確であつたとしても、その数は、必ずしも被告組合の組合員にして原案反対者の数を示したものと認めることはできない。(3)  また原告らは、原告らの組織する第一漁業協同組合の組合員の数から考えても、三分の二以上の原案賛成者があるとは考えられないというけれども、しかしその後右組合員のうち百数十名の者が既に脱退の申出をなしており、これらの者は単に「デマ」に迷わされて第一漁協に加入していたのであるが、総会当時その真相を知り、第一漁協の組合員でありながら原案賛成者の数に加つているのである。従つて原告らが単に第一漁業協同組合の組合員名簿の記載数字を根拠として右の如き主張をなすことは何ら理由がないといわねばならない。(チ) 以上のとおり本件総会における議決は適法であり、然も定款の変更については昭和二十七年二月十二日長崎県知事の認可を得ているので、これを無効又は取消し得べきものとする原告らの本訴請求は、いずれも理由なきものとして棄却を免れないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

一、まず原告らの(一)の請求(昭和二十六年(ワ)第三七三号事件)について判断する。

原告らが被告組合の組合員で且漁民であること、及び被告組合が昭和二十六年九月二十五日、その組合事務所において臨時総代会を開催し、共同漁業権の行使方法に関する議案を上程し討議の上いずれも原案どおり可決する旨の議決をしたことはいずれも当事者の間に争がなく、本件における問題は要するに組合総代会が漁業権の行使方法に関する議決をなすことができるか否かということである。

ところで漁業法第八条には、漁業協同組合の組合員であつて漁民であるものは、定款の定めるところにより、当該漁業協同組合の有する共同漁業権の範囲内において各自漁業を営む権利を有する旨規定されているのであるが、その趣旨は、要するに漁業協同組合の組合員であつて漁民であるものは、定款の定めるところにより、始めて顕現的な操業上の権利を有するということ、換言すれば、定款の定めがあるまでは、組合員には、いわば潜在的な権利があるに過ぎないと解するのが相当である。そうすると組合員であり且漁民であるものが権利として漁業を営むには、必ず定款の定めにより共同漁業権の行使方法が規定される必要があるというべきであつて、被告組合の定款には従来、その旨の記載がなかつたことは明に当事者間に争がないから、被告組合の組合員が権利として漁業を営むには必ず定款変更の手続を経て、定款に共同漁業権の行使方法を定めなければならないこと当然というべきである。そして水産業協同組合法第五十条によれば、定款の変更には、総組合員(準組合員を除く。)の半数以上が出席し、その議決権の三分の二以上の多数による議決を必要とする旨規定されており、また同法第五十二条第五項では、総会に代る総代会においては、定款変更について議決権がない旨規定されているから、従つて被告組合の総代会のした本件議決は当然無効であつたと解するの外はない。この点について被告組合は、定款に記載すべき事項は、水産業協同組合法第三十二条の定めるところであるが、同条は、漁業権の行使方法を定款の記載事項としていないから、従つて組合の意思決定機関である総会の議決によつて決定し得ると解している。しかし同条の規定は、いわゆる定款の絶対的記載事項だけを定めたもので、この点からみれば漁業権の行使方法は、定款の絶対的記載事項ではないけれども、然も漁業法第八条が別に「定款の規定により漁業権の行使方法を定む」旨を規定しているところからみれば、漁業権の行使方法は、いわゆる定款の任意必要的記載事項であつて、その記載を欠くも、定款自体の無効を招来することはないが、しかしまたその記載がない限りは、何らの効力を生じ得ない事項、つまり単なる任意的記載事項ではないと解するのが相当である。また被告組合は、定款に漁業権の行使方法が定められるまでの間は、少なくとも暫定的に、総会又はこれに代る総代会の議決による決定が是認さるべきであるという。なるほど漁業権の行使方法を、定款の必要的記載事項であると解すれば、定款にその定めがなされるまでの間は、何人も権利として漁業を営むことができないことになり、漁民の福祉が著しく害される結果となるであろうから、少なくともその間は暫定的に、総会又はこれに代るべき総代会の議決によることが認められねばならないとする議論には、相当の根拠があるということができよう。けだし漁業協同組合に共同漁業権が免許されてから、定款にその行使方法が規定されるまでの間の措置については、法律に何らの経過的規定も設けられていないから、共同漁業権を組合員の総有とし、その総意によつて運営せしめようとする新漁業法の精神に徴し、総会又は総代会の議決によつて暫定的な措置を講じさせるということは、旧来の慣行を尊重するということよりも、一そう正しい考え方であろうと思われるからである。しかしまた飜つて考えるとき、漁業協同組合の組合員が、権利として当該組合に属する共同漁業権を行使するには、必ず定款の定めを要すること漁業法第八条の規定するところであるから、漁業協同組合が定款を定めるまでの間は暫定的に総会又はこれに代るべき総代会の議決を以て共同漁業権の行使方法を決定し、組合員がこれによつて漁業を営むということは、法律の禁止しない事実上の措置という意味においては、必ずしも違法でない、ということができるけれども、しかし前記の議決だけで直に操業上の顕在的な権利が生れてくるものとは解し難い。また法律が前記の如き経過規定を設けなかつたということは、新漁業法の発足まで二ケ年の準備期間もあり、法は漁民自らの意識と力による新秩序の形成を期待し、且新漁業法の発足までの間に共同漁業権の運営について、充分の措置を講じさせ、またそうすることができると認めた結果に外ならないと解するのが相当であつて、新漁業法の発足以来、何時までも互に相争つて定款を定め得ないということは、或る意味では組合員自らの責任であるというべきであるから、従つてこのことの故に、共同漁業権の行使方法が必ずしも定款の定めを俟つ必要がないとする結論を正当化することはできない。尤も被告組合の総代会が、来るべき総会に上程される定款の一部変更に関する議案そのものを、議案として審議決定したというのであれば、格別その有効無効を論議する必要がないと考えられるのであるが、しかし被告組合は、総代会の議決によつて漁業権の行使方法を決定することができるものとなし、被告らも亦これによつて顕在的に共同漁業権を行使する権利を取得したものとして、互に争つていることは主張自体に徴して明であるから、原告らが本件総代会の議決によつては、被告らに顕在的な権利としての共同漁業権の行使権は生れてこないという意味で、該議決の無効確認を求めることはその理由があるというべきである。また原告らが被告組合の組合員であり且漁民であることが前記のとおりである以上、該議決の無効なることの確認を求めるにつき法律上の利害関係を有するものと認めるのが相当である。被告組合は、その後昭和二十七年二月十一日臨時総会を開催し、漁業権の行使方法を議決し、定款変更の手続を経て既に長崎県知事の認可を得ているから、今日では、総代会の議決の無効確認を求める何ら法律上の利益はないと主張するけれども、該総会の議決にして取消し得べきものであること後記(三)において説明するとおりであるから、右総会の議決にかかわらず、原告らがなお本件総代会の議決の無効確認を求めることは、必ずしもその利益なしということはできない。

それで原告らの(一)の請求はその理由があるものとしてこれを認容すべきである。

二、次に原告らの(二)の請求(昭和二十六年(ワ)第四〇七号事件)について判断する。

原告らは、奈留島村浦郷立岩部落海岸における地曳網漁場は、原告ら若しくはその先代らが開拓し、大正元年以来新漁業法施行まで引続いて地曳網漁業を経営し、これを共同管理占有してきたものであるから、定款により共同漁業権の行使方法が定められるまでは、原告らになおその占有権があると主張している。しかし大体従来の慣行による旧漁業権は昭和二十六年九月三十日限り消滅し、同時に新漁業法による共同漁業権が漁業協同組合に免許され、漁業協同組合が新にこれを管理することになつたのであるが、新漁業法の趣旨とするところは、従来の漁場秩序を全面的に否定し、従来の漁業関係の一切を白紙に還元し、新しい漁場秩序を形成させようとするに在るのであるから、たとえ原告らが従来前記漁場において地曳網漁業を営んでいたからといつて、従来の漁場秩序が全面的に否定された今日、なお従来の占有関係だけが残存しているというが如きことは到底是認し難い議論である。否むしろ漁場そのものの性質から考えるとき、旧漁業権が消滅し原告らの前記漁場における漁業を営む権利が失われると同時に、その占有関係も亦白紙に還元されたものとみるべきである。また原告らは、漁業法第八条の規定は、共同漁業権が組合に免許されると同時に、その組合員である漁民の全部が各自漁業を営むことのできる権利を取得するのであつて、ただ定款の定めにより、その間の利害を調整せしめる趣旨のものであるから、被告組合が新に共同漁業権の免許を受けると同時に、原告らも各自漁業を営む権利があり、従つて原告らは、該漁業権の準占有者であるという。しかしながら、右主張の採用し難いことは前記(一)において説明したとおりであるから、原告らが斯様な論拠によつて被告らの妨害排除を求めることはそれ自体許されないと解さねばならない。尤も原告らにも定款の定めにより漁業を営み得る潜在的な権利が有る訳であるから、被告組合の組合員以外の者が理由なく本件の漁場荒しをしているとすれば、原告らがその漁場保全のために、権利として斯様な第三者の妨害排除を求めることは、必ずしも考えられないことではないけれども、しかし定款の定めにより共同漁業権の行使方法が定められるまでの間は、個々の組合員には、操業上の顕在的な権利はないのであるから、被告組合の組合員であり且又漁民である原告らが、同じく被告組合の組合員であり漁民である被告ら(この点は明に当事者間に争がない。)に対し、妨害排除を訴求する法律上の権利はないものと解すべきである。これを要するに前記(一)において説明したとおり、漁業協同組合の組合員が顕在的な権利として、当該組合に免許された共同漁業権を行使するには、必ず定款の定めを要するのであつて、何時までもこれを定め得ないということは、或る意味においては組合員自らの責に帰すべき事由であり、定款を定めるまでは、組合員の協定によつて事実上の措置を講じ、事実上操業を行うという以外に途はない。それは必ずしも法律の禁止しないいわば放任的な事実行為であるという意味において違法ではないということがいえるとしても、権利として相互の主張を許さないものと解するの外はない。そうすると原告らの(二)の請求は爾余の判断を俟つまでもなく、既にこの点において失当というべきであるから、これを認容することができない。

三、それで次に(三)の請求(昭和二十七年(ワ)第四六号事件)について判断する。

被告組合が昭和二十七年二月十一日奈留島村立第一中学校において臨時総会を開催し、総代会がさきに議決したとおり、組合定款の一部を変更する件外一件の議案を上程し、議決権の三分の二以上の多数により、これを原案どおり可決する旨の議決をしたこと及び右の議決が、原案賛成者を議場外に退去させてその数を算し、現実に原案反対者の数を当らず、当日の出席組合員総数から原案賛成者の数を控除したものを原案反対者と看做すという方法によつてなされたことはいずれも当事者間に争がない。そして成立に争のない乙第十三号証によれば、被告組合総会議事細則の第十六条には「採決は可否の両方について行い、先ず賛成の数を先にとらなければならない」旨規定しているので、これらの規定の趣旨から考えるとき、原案賛成者だけを数え反対者の数を確認しないというが如き採決方法は明に右議事細則の違反であるといわざるを得ない。

けだし同条の規定は、議案に対する賛否を採決するに当つては、まず賛成者の数を算し、次いで必ず反対者の数も当つて、その合計が果して出席者の数と一致するか否か、賛成及び反対の数に誤謬なきか否かを確認させる趣旨の強行的規定であると解されるからである。この点について被告組合は、同条の規定を例示的規定と解し従つて已むを得ない場合には、その定める以外の方法により採決をなすことも亦違法ではないと主張している。そしてなるほど採決というのは議案に対する賛否の数を明にすることが目的なのであるから、賛否の数を明にする方法である限り、議事細則の定める以外の採決方法によることも、必ずしも差支えがないという議論にも一応の理由は立つのであつて、たとえば前記議事細則第十五条の「採決は挙手、起立、記名又は無記名投票のいずれかの方法を以て、その都度議長が総会に諮つて決める」旨の規定の如きは、一つの例示的規定と解することができ、従つて同条の定める以外の方法、たとえば賛成者を議場の右側に、反対者を左側に各整列させ、それぞれその数を確認するというような採決方法は必ずしも議事細則の違反というには当らないということができよう。然しまた一面、議事細則は議事の公正且正確性を期しこれを担保するためのものであるから、そのいずれの規定もすべて任意的であると解することは、議事細則自体の抹殺であるといわなければならない。斯様に考えてくると結局議事細則の規定のうちには議事の公正且正確性を担保するための強行的なものと、この目的に背反しない限り任意の方法をとることの許容される例示的なものとがあるのであつて、その区別は議事細則の精神にわきまえ、規定の内容を検討し、その有する価値判断によつて決定されると解するのが妥当である。そこでこの観点から前記第十六条の規定を検討するのに、なるほど賛成者又は反対者の数を当つてこれを出席者総数から控除すれば算数上反対者又は賛成者の数は当然出てくることにはなるけれども、しかし如何なる採決方法をとるにもせよ、本件における如く千人に余る大多数の人数を数えるときには、或は計算違いを生ずることなきを保し難いから、同条は、必ず賛否の数を当つてその合計が、果して出席者総数と一致するか否か、賛否の数に過誤なきや否やを確認させ、以てその公正且正確性を担保せしむるためのものであるというべきであつて、必ず賛否の双方を確認するということは矢張り強行的な規定で、単に賛否の一方だけを数え他方を確認しないというが如きことは、到底許されないと認めるのが相当である。この点についてまた被告組合は、当日の議場の混乱状況、騒擾の状態に鑑み、同条の定める採決方法を以てしては、到底賛否の数を確認するに由がなかつたから、議案の重要性に鑑み出席組合員過半数の議決によつて、本件の如き採決方法をとらざるを得なかつたと主張している。しかし、原案賛成者を議場外に退去させ、これを校庭に整列させて、その数を当ることができたにかかわらず、議場内に残留していたより少数である反対者の方を数えることができないという理由はない。また斯様に反対者の方を数えることができなかつたというような事情は、本件に顕れた数多くの証拠によるもこれを確認するに足りない。また議案の重要性に鑑み本件の如き採決方法をとつたのであるならば、なお一そう反対者の数も数えてその正確を期すべきであつたともいえないことはない。また仮りに出席組合員過半数の賛成があつたとしても、これによる議事手続の変更には自らなる限界があるのであつて(著しい例としては定款の変更につき過半数の議決を以て足るというが如し。)本件の採決方法の如きはその限界を超えるものというべきである。そうすると本件の採決方法は議事細則に違反する違法の採決手続であつたと認められるのであるが、しかしなお問題はこれだけでは解決されない。というのは斯様な議事手続に存する違法の原因が、議決の成否そのものに全然影響がなかつたことが明である場合には、強いて当該議決を違法として取消さなければならぬ何らの実益がないと考えられるからである。そこで本件においては更に斯様な観点から議事手続に存する違法の原因が議決の成否そのものに全然関係がなかつたか否かを検討してみる必要がある。

よつて按ずるに、原告らは総会終了後、原案の反対者のみを議場内に残留させ、厳密にその数を当つたところ、五百三十二名を算したと主張し、成立に争のない乙第六号証(総会議事録)、甲第十八号証(総会受附簿)、弁論の全趣旨によりその成立の認められる乙第十四号証(証明書)、乙第十五号証の一乃至五三(加入申入書)、乙第十六号証の一乃至五三(証明書)に被告組合代表者理事夏井一郎本人尋問の結果(第一回)を綜合すると、本件総会当時被告組合の総会を組織する正組合員の総数は千四百六十九名、採決当時本人出席者の数は九百七十三名、委任出席者の数は四百二十三名、合計千三百九十六名であつたことが認められるので、原案反対者の数が前記の如く五百三十二名であつたとすれば、当日の出席組合員の三分の二以上の賛成はなかつた結論になる。しかしこの数字は総会終了後に数えられたものであるばかりでなく、証人道越栄三郎、葛島信一の証言によつて窺い得る如く、一旦原案賛成者として議場外に退出し、その数に加わつておきながら、再び原案反対者として議場内に残留しその数に加わつた者が絶無であつたとはいえないし、また証人城山惣助、江口庄吉、井上シゲらの証言によつても知り得るように被告組合の組合員以外の者が一名もその数に加わつていないとは断言し難い事情も窺えるから、被告組合のいうように前記反対者の数字のみによつて、にわかに三分の一以上の反対があつたとは確認し難い。しかしまた一方これと同様に、原案賛成者を議場外に退出させて数えた数字は、同時に議場内に残留していた反対者の数を確認していない以上、絶対に正確であるとは断言し難いという原告らの主張も亦尤もな次第であつて、証人松尾賢市、熊本健一、北川勇吉、東好松、三宅又吉、江村甲子松、三浦政次郎、柿森敏夫、白石正輔、藤原静樹、江口庄吉、宮崎伊勢松、平山徹美らの各証言を綜合するとき、総会招集通知書によれば当日の議場は、被告組合事務所の階上と指定せられていたにかかわらず、当日事情によつてこれを変更し前記の如く奈留島村立第一中学校において開かれたのであるが(この点は当事者間に争がない。)、同中学校における臨時の議場は、六間四方位の教室三つを合せた程度の狭隘なものであつたから、出席組合員の全部を収容することができず、教室の廊下に群つている者があり、更には教室外の校庭に、繩を廻らして相当数の出席組合員が集合しているといつた状況であつて、然も当日の議案が奈留島村漁民の死活に関する重大案件であつただけに、これに関心を持つ約三百名の傍聴者が蝟集しておつたという事実が認められ、また漁民の死活に関する重大案件であつただけに、議事の進行について兎角の激論が闘わされ、議場は騒然として議長の発言なども充分全組合員には徹底し難い状態であつたことが確認される。そして叙上の事実から考えるとき、原案賛成者を議場外に退出させてその員数を数え、これを出席者総数から控除したものを反対者とするというような採決方法をとることにつき、果して過半数の賛成があつたかどうか、或は充分その趣旨を了解せずして議場外に退出し、賛成者の数に加わつた者が絶無であつたかどうか、甚だ疑わしい点があると認められるのみならず、前顕各証拠を綜合すれば原案賛成者の中に、絶対に組合員以外の傍聴者などが一名も加わつていないとは断定し難い事情も窺えるし、また原案賛成者そのものの数字が、ことほど左様に正確であつたとも断言し難い。証人高島伝吉、小河原市五郎、平山徹美、白石正輔、宮崎伊勢松、藤原静樹、江上八蔵、江口庄吉らの各証言部分及び被告立岩繁太郎並びに被告組合代表者理事夏井一郎各本人尋問の結果によつては、全出席組合員に十分に議事が徹底し、原案賛成者の中に非組合員である傍聴者など加つた者は絶無であり、また賛成者の数が絶対に正確であつたということは、未だこれを確認するに足らず、他にこれを肯認すべき的確な資料はない。そうすると叙上の経緯の下にとられた本件採決手続は、明に議事細則の違反であり、然もその採決手続に存する違法の原因が議決の成否そのものにつき、何らの影響がなかつたとはいい難いから、結局本件の採決手続は、議事細則に違反するものとして矢張り取消を免れない(叙上のかしは取消原因であると解する。)と解するのが相当である。

さすれば本件採決手続は爾余の判断を俟つまでもなく、既にこの点において違法たるを免れないものであるから、これが取消を求める本訴請求は、その理由があるものとしてこれを認容しなければならない。

それで以上(一)及び(三)の請求を認容し、(二)の請求を棄却し、主文第四項掲記のとおり訴訟費用の負担を定め、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江啓七郎 田中英寛 菊地博)

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